スリップウェア

スリップウェアを用いたマグカップ(イングランド、1740年頃、ロサンゼルス郡美術館所蔵)
"Thrown, Slip Trailed, Feathered Dish" Joan Hotchin 作

スリップウェアslipware)とはヨーロッパなど世界各地で見られた、古い時代の陶器の一種。器の表面をスリップ(英語版)(エンゴーベ)と呼ばれる泥漿(でいしょう、粘土を適度な濃度に混ぜたもの)状の化粧土で装飾する方法が特徴。近年でも陶芸家によって作品が作られている。

作製方法

まず先述のスリップを準備し、生乾きのの全面に地色となるスリップをかける。さらにこの上にスポイトから細く垂らしたり、筆で描いたり、更にこれを櫛状の道具で引っかいたりして文様を描く。このあと場合によっては型に押し当てて成型し、窯に入れて焼く。完成後、スリップをたらした部分は盛り上がって素地とは違う色の文様が浮かび上がることになる。

スリップは白い粘土や鉱石の調合で作られ、「化粧土(engobe、エンゴーベ)」とも呼ばれる。器がスリップで均一に化粧掛けされる場合もあるが、これは荒い素地を色の淡いスリップでカバーし、滑らかで美しい表面に仕上げるためや、スリップを部分的に削って素地の色を出し模様にするためである。ヨーロッパなどで建築のの装飾に使われたズグラッフィート(Sgraffito)という手法は陶芸でも使われており、表面が生乾きの間に着色したスリップの層を線で引っかいて、下側の異なる色のスリップの層や素地となる陶の色を露出させて模様を描く。

スリップは、陶の上に色を一層または数層に重ねて絵を描く手法としても使われる。このうち、スポイトから垂らす手法は日本の作陶における「筒描き」(いっちん盛り)と同じ手法であり、スリップを垂らしては流す事を繰り返して矢羽根文様を作ることもできる。

また近年ではスリップを塗ってから一度素焼きを行ない、その上に釉薬や異なる色のスリップを流したりした後に本焼成する。古来の一度だけ焼成を行なう方法では温度は1,000℃前後なのに対し、現在では本焼成を約1,300℃で行なっている。

スリップウェアの歴史

14世紀前半のイランで制作されたスルタナバード陶器(シンシナティ美術館所蔵)

多くの先史時代産業革命前の時代の文化で、スリップウェアが作製されている。最古のものは紀元前5000年古代中国古代中東で作られたと考えられている。その後、アフリカの多くの地域、南北アメリカ大陸の先住民の間や、初期の朝鮮半島ミケーネ文明古代ギリシアの陶芸イスラームの陶芸、そして17世紀から18世紀までのイギリスなどで重厚な陶器が作製され、鍋や皿をかねて使われていた。比較的進んだスリップウェア、例えばイギリスでのスリップウェアは釉薬と組み合わせて使われていた。

こうしたスリップウェアは進んだ陶磁器技法の普及や産業革命による大量生産品の普及とともに廃れた。しかし20世紀になって見直されこの技法を使う陶芸家やメーカーも多くある。そのうち、バーナード・リーチ富本憲吉1913年に東京の丸善で購入したチャールズ・ロマックスの『古風な英国陶器』という本の中で、初めてスリップウェアの存在を知った。リーチと濱田庄司1920年にイギリスに渡り、セント・アイブスの彼らの窯の近くでスリップウェアの破片を見つけるとともに現存するスリップウェアを収集し、1924年に濱田が日本に持ち帰った。柳宗悦河井寛次郎もこれを目にし、彼らの作陶や民藝運動に強い影響を与えた。その後、布志名舩木道忠が独自のスリップウェアに取り組み、その息子、舩木研児、倉敷の武内晴二郎らも引き続き独自のスリップウェアに取り組んだ。後年、丹波の柴田雅章によってイギリスのスリップウェア技法が明らかにされ、芸術新潮(2004年)の紙面において技法公開がなされた。

外部リンク

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