マリア・テレサ王女 (ベラスケスの絵画)

『マリア・テレサ王女』
ドイツ語: Infantin Maria Teresa
英語: The Infanta Maria Theresa of Spain
作者ディエゴ・ベラスケス
製作年1652-1653年
種類キャンバス上に油彩
寸法127 cm × 98.5 cm (50 in × 38.8 in)
所蔵美術史美術館ウィーン

マリア・テレサ王女』(マリア・テレサおうじょ、: Infantin Maria Teresa: Infanta Maria Theresa of Spain)は、スペインバロック絵画の巨匠ディエゴ・ベラスケスキャンバス上に油彩で描いた絵画である。1652-1653年に制作され、王女マリア・テレサが14歳の時の肖像画である[1]。マリア・テレサ (1638-1683年) はフェリペ4世ブルボン家イサベル・デ・ボルボンとの間に生まれ、唯一成人した子供である[2]。彼女は継母で従姉妹のマリアナ・デ・アウストリアより4歳若いが、よく似た容姿で、かつては絵画がよく混同された[2]。本作はフェリペ4世によりウィーンハプスブルク家の宮廷に送られ、1653年にフェルディナント3世に受理された[1]。現在、ウィーンの美術史美術館に所蔵されている[1][2][3][4]

作品

本作はベラスケス晩年の肖像画中の傑作の1つと見なされている。暗い背景の中、真珠の飾りをあしらった銀灰色のドレスを身に着け、光に照らされている王女は、荘厳なポーズで表されている。作品の謹厳さ、公式性がドレスの上の2つの時計によって強調されている一方、輪骨スカートが透けて見える左手のハンカチは[4]絵画のハイライトの1つとなっている。絵画は絵具を薄塗りし、画布の上を滑るかのように流麗な仕上げである[2]。衣装と宝石のきわめて洗練された彩色は驚嘆すべきものであり、色彩のニュアンスは微妙に変化している。筆致はそれ自身の生命力によって織物と事物を輝かせ、素晴らしい反射を作り出している。ベラスケスの作品では、影でさえも不透明ではなく透明である[1]

不幸にも、本作は長い年月の間にひどい損傷を受けた[1]。その修復の拙さは、顔、とりわけ口と目にはっきりと現れている。また、キャンバスも描かれた時はもっと大きく、それが現在のサイズにまで切断された可能性が高い[1]

ベラスケスと彼の助手たちは、1663年にマリア・テレサ王女の肖像3点をそれぞれウィーン、ブリュッセルパリの花婿候補たちに送った[3] (王女は最終的にルイ14世と結婚した[1][2][3][4]) 。他の2点のヴァージョンは現在ボストン美術館ルーヴル美術館に所蔵されているが、どちらもベラスケスの真筆とは認められていない[1]。ボストンの作品は全身像で、ウィーンにある本作もかつては全身像として描かれたに違いない[4]。一方、ルーヴル美術館の作品は半身像である[1]

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i モーリス・セリュラス 1980年、140頁。
  2. ^ a b c d e カンヴァス世界の大画家 15 ベラスケス、1983年、91-92頁。
  3. ^ a b c “Infanta María Teresa”. 美術史美術館公式サイト (英語). 2024年2月1日閲覧。
  4. ^ a b c d 大高保二郎・川瀬祐介 2018年、86頁。

参考文献

  • モーリス・セリュラス 雪山行二・山梨俊夫訳『世界の巨匠シリーズ ベラスケス』、美術出版社、1980年刊行 ISBN 978-4-568-19003-8
  • 井上靖高階秀爾編集『カンヴァス世界の大画家 15 ベラスケス』、中央公論社、1983年刊行、ISBN 4-12-401905-X
  • 大高保二郎・川瀬祐介『もっと知りたいベラスケス 生涯と作品』、東京美術、2018年刊行、ISBN 978-4-8087-1102-3
  • Museo del Prado. Pintura española de los siglos XVI y XVII. Enrique Lafuente Ferrari. Aguilar S.A. 1964
  • Gállego, Julián. Velázquez. New York: Metropolitan Museum of Art; H.N. Abrams, 1989

外部リンク

  • 美術史美術館公式サイト、ディエゴ・ベラスケス『マリア・テレサ王女』 (英語)
ボデゴン

『3人の音楽家』(1617-1618年)  · 『昼食』(1617-1618年)  ·卵を調理する老女』(1618年)  ·セビーリャの水売り』(1620年頃)

宗教画

『無原罪の御宿り』(1618-1619年)  · 『パトモス島の聖ヨハネ』(1618-1619年)  · 『マルタとマリアの家のキリスト』(1618年)  · 『東方三博士の礼拝』(1619年) ·キリスト教の魂により見つめられるキリスト』(1628-1629年)  ·ヨセフの衣を受けるヤコブ』(1630年)  · 『十字架上のキリスト』(1631-1632年)  · 『聖トマス・アクィナスの誘惑』(1632年)  ·聖アントニウスと隠修士聖パウルス』(1634年頃)  · 『聖母戴冠』(1635-1636年)

歴史画・神話画

バッカスの勝利』(1628-1629年頃)  ·ウルカヌスの鍛冶場』(1630年)  ·ブレダの開城』(1634-1635年)  · 『軍神マルス』(1638年頃)  · 『イソップ』(1639-1640年)  · 『メニッポス』(1639-1640年)  ·鏡のヴィーナス』(1647-1651年頃)  ·アラクネの寓話』(1657年頃) · 『メルクリウスとアルゴス』(1659年頃)

王家の肖像画

『フェリペ4世 (1623年)』(1623年)  ·ドン・カルロス親王の肖像』(1626-1627年)  ·ハンガリー王妃マリア・アンナの肖像』(1630年頃)  ·茶と銀の装いのフェリペ4世』(1631-1632年)  ·皇太子バルタサール・カルロスと小人』(1632年)  ·狩猟服姿のフェリペ4世』(1632-1634年)  ·狩猟服姿の枢機卿親王フェルナンド・デ・アウストリア』(1632-1634年)  ·皇太子バルタサール・カルロス騎馬像』(1635年)  ·狩猟服姿の皇太子バルタサール・カルロス』(1635-1636年)  ·フェリペ4世騎馬像』(1635-1636年頃)  ·フラガのフェリペ4世の肖像』(1644年)  · 『王妃マリアナ・デ・アウストリア』(1652-1653年)  · 『マリア・テレサ王女』(1652-1653年)  · 『フェリペ4世 (1653年)』(1653年頃)  ·ピンクのドレスのマルガリータ王女』(1653-1654年)  ·ラス・メニーナス』(1656年)  ·皇太子フェリペ・プロスペロの肖像』(1659年)  ·青いドレスのマルガリータ王女』(1659年)

王家以外の肖像画

修道女ヘロニマ・デ・ラ・フエンテ』(1620年)  ·ドン・ルイス・デ・ゴンゴラの肖像』(1622年)  ·ドン・フアン・マテオス』(1632-1633年頃)  ·道化ドン・フアン・デ・アウストリア』(1632-1633年頃)  ·道化バルバローハ』(1633年)  ·フアン・マルティネス・モンタニェースの肖像』(1635年頃)  ·道化パブロ・デ・バリャドリード』(1635年頃)  · 『男性の肖像』(1635年頃)  ·オリバーレス伯公爵騎馬像』(1636年頃)  · 『オリバーレス伯公爵ガスパール・デ・グスマン』(1636年頃、または以降)  · 『オリバーレス伯公爵の肖像』(1638年頃)  · 『道化カラバシーリャス (プラド美術館)』(1635-1639年) ·道化ディエゴ・デ・アセド』(1640年頃) · 『扇を持った女性』(1637-1640年頃)  · 『お針子』(1635-1643年)  ·道化セバスティアン・デ・モーラ』(1644年頃) ·バリェーカスの少年』(1635-1645年)  ·フアン・デ・パレーハの肖像』(1650年頃)  ·インノケンティウス10世の肖像』(1650年頃)

風景画

『ヴィラ・メディチの庭園、ローマ』(1630年頃)