北朝鮮によるフランス人拉致

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北朝鮮によるフランス人拉致(きたちょうせんによるフランスじんらち)は、フランス国籍の一般市民が朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)特殊機関の工作員などにより拉致誘拐された事件および状態。深刻な人権侵害であり、フランス共和国に対する重大な主権侵害行為である。

証言

フランス人拉致被害者については、1978年1月にイギリス領香港で北朝鮮工作員によって拉致された、大韓民国の有名な女優崔銀姫が抑留生活のなかで聞いた話が彼女の手記に記録されている[1][2]。それによれば、北朝鮮は外国人女性が必要だというとき、美男子で体格のよい工作員を当該国に潜入させ、場合によっては整形手術まで施すという[1]。フランスに派遣された工作員は、東洋の富豪層の子息のふりをしてフランス人女性に接近して物量攻勢で誘惑し、彼女は誘惑に負けて工作員と婚約した[1]。工作員は婚約記念旅行と称して中国国内を観光して平壌におびき寄せた[1]。彼女には両親に挨拶をしたらパリに帰ろうと話し、平壌国際空港まで連れ出すと彼はいなくなり、代わりに別の工作員が現れた[1]。彼女が婚約者を探してほしいと頼んでも、そんな者はここにはいないと返事して、彼女を軟禁し、洗脳工作を開始した[1]。騙されたことを知ったフランス女性は、泣き叫んで抗議し、自分は法律を学んでおり、どんな経路を用いてでも国際機関に訴えると頑強に主張した[1]。しかし、彼女はどこかに連行されてしまい、その後は消息が絶えてしまったという[1][注釈 1]。崔銀姫は、のちに、この情報を伝えてくれたのは、招待所のなかだけを巡回する男性理容師だということを明らかにした[3][4][5]

崔銀姫と同じような情報を、北朝鮮元工作員金賢姫も招待所(拉致被害者を主要する施設)に勤める世話係の女性から聞いた話として得ており、そのことは彼女の手記にも書かれている[2][3][6]

この前拉致されてきたかわいい外国人の女性がいたんだけど、北朝鮮工作員にだまされて連れてこられたんだって。北朝鮮にくるやその工作員はどこかに消えてしまい、その外国人女性は自分を連れてきた工作員を探してくれと何回も頼んだけど、たわごとを言うな、と毎日殴られていたのよ[6]

また、1978年のレバノン人女性拉致事件で拉致被害にあった女性4人のうち、解放された2人のレバノン人女性は、拉致後、北朝鮮で3人のフランス人女性。2人のオランダ人女性、3人のイタリア人女性を含む合計28人とともにスパイ訓練を受けたと証言している[2][7][8]

拉致の背景

金日成によって後継者に指名された金正日は、1976年対南工作部門幹部会議において、工作員の現地化教育を図ること、そのために外国人を積極的に拉致するよう指令を出したといわれる。1977年、金正日は、北朝鮮の工作員たちに対し「マグジャビ」(手当たり次第)に外国人を誘拐するよう命じた[8]

現状と解決に向けた取り組み

法学を学んだフランス人女性の家族は、いまもフランスで彼女を待っているものと思われる[2]。しかしながら、北朝鮮当局はフランス人拉致を未だ認めていない。外国人拉致は、相手国に対する主権侵害行為である。したがって、国際法にのっとり、原状回復すなわち拉致被害者の速やかな解放、犯人の相手国への引き渡し、公式な謝罪、被害者本人・家族に対する補償を行なわなければならない。

脚注

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注釈

  1. ^ 崔銀姫は、北朝鮮が外国語教師を確保するために拉致するという話を聞いて「あまりにも呆れた目的ではないか」「目的のためには手段を選ばず」と憤り、「なぜ、北朝鮮ではこのように拉致という手段を平気でとるのだろう」「社会主義の理想は、なぜこのように暴力に転落してしまうのだろう」と強い疑問を呈している[1]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i 崔・申『闇からの谺(下)』(1989)pp.31-32
  2. ^ a b c d “ジュネーブで政府主催拉致シンポジウム”. 救う会全国協議会ニュース. 北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会 (2012年11月9日). 2021年10月23日閲覧。
  3. ^ a b “拉致被害者情報を当時国国連代表部に-家族会・救う会訪米団”. 救う会全国協議会ニュース. 北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会 (2006年10月31日). 2021年10月23日閲覧。
  4. ^ “04_世界に広がる拉致被害者”. 救う会. 北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会 (2006年10月1日). 2021年10月23日閲覧。
  5. ^ “「田口八重子さんを救うぞ!」-東京連続集会71報告4”. 救う会全国協議会ニュース. 北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会 (2006年10月1日). 2021年10月23日閲覧。
  6. ^ a b 金賢姫(1997)pp.248-249
  7. ^ “フランス人、イタリア人、オランダ人拉致被害者に関する有力情報”. 救う会全国協議会ニュース. 北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会 (2006年3月10日). 2021年10月23日閲覧。
  8. ^ a b 「ニューズウィーク日本版」2006年2月22日(通巻993号)pp.32-34

参考文献

  • 金賢姫『忘れられない女―李恩恵先生との二十ヵ月』文藝春秋文春文庫〉、1997年10月(原著1995年)。ISBN 978-4167565046。 
  • 崔銀姫申相玉『闇からの谺 - 北朝鮮の内幕(上)』文藝春秋〈文春文庫〉、1989年3月(原著1988年)。ISBN 4-16-716202-4。 
  • 崔銀姫・申相玉『闇からの谺 - 北朝鮮の内幕(下)』文藝春秋〈文春文庫〉、1989年3月(原著1988年)。ISBN 4-16-716203-2。 

関連項目

日本の旗 日本人拉致問題
日本の旗 法令
日本の旗 団体・運動
日本の旗 政府・議会
日本の旗 拉致被害者
日本の旗 特定失踪者
(拉致濃厚)
  • 斉藤裕
  • 大屋敷正行
  • 藤田進
  • 遠山文子
  • 国広富子
  • 山本美保
  • 佐々木悦子
  • 福山ちあき
    (※北朝鮮で目撃された人物のみ)
朝鮮民主主義人民共和国の旗拉致被害者(朝鮮籍)
  • 高敬美
  • 高剛
被害者家族
実行犯
被害者居住地
大韓民国の旗 韓国人拉致問題
大韓民国の旗 拉致被害者
中華人民共和国の旗 中国人拉致問題
  • 2012年中国漁船シージャック事件(中国語版)
  • 2013年中国漁船シージャック事件(中国語版)
中華人民共和国の旗 拉致被害者
  • 孔令譻
  • 蘇妙珍
  • イ・ソングァン
  • イ・ギチョン
各国の拉致問題
タイ王国の旗 タイ人拉致
マラヤ連邦の旗 マレーシア人拉致
  • 葉玉芬(Yeng Yoke Fun)
  • 葉美玲(Yap Me Leng)
  • 司徒戴琴(Seetoh Tai Thim)
  • 王玉珠(Margaret Ong Guat Choo)
シンガポールの旗 シンガポール人拉致
  • 黃錦瑛(Diana Ng Kum Yim)
ルーマニアの旗 ルーマニア人拉致
レバノンの旗 レバノン人拉致
アメリカ合衆国の旗 アメリカ人拉致
朝鮮民主主義人民共和国の旗 外国人拘留・外国人捕虜
アメリカ合衆国の旗 米国人脱走兵(拉致被害者家族)