鄧颺

鄧 颺(とう よう、? - 249年2月9日(正始10年1月10日))は、中国魏の政治家。字は玄茂荊州南陽郡の人。後漢初期の鄧禹の末裔にあたる。

経歴

若くして都で名声をあげ、明帝・曹叡の頃に尚書郎となり、洛陽令に就いたが、ある事件の罪で免職になった。後に中郎から、宮中に入って中書侍郎を兼任した。

鄧颺は諸葛誕李勝らと親しく、仲間内で評価しあい「四聡八達」を称していた。太和4年(230年)、明帝はそうした風潮を「浮華」と忌み嫌って、彼らをすべて罷免し、在位中は任用されなかった[1]。正始年間の初め(240年頃)にようやく潁川太守に任じられ、大将軍・曹爽の長史に転任し、侍中、尚書に栄転した。また何晏や李勝、丁謐畢軌桓範らと共に曹爽の腹心となった。

鄧颺は金銭を好み、朝廷にいた頃は臧艾(臧覇の子)に高官への任命を請け負って、彼の父の妾をもらった事があった。このため都では「官位で女をあきなう鄧玄茂」と噂された。鄧颺の推薦はこうした例が多かったため、何晏が選抜に携わっても人材を得られなかったのは、こうした態度にかなりの原因があった[2]

また、鄧颺は処世術が得意であったが、傅嘏からは「有能だが仕事をやり通すことはせず、外に名誉を求め、内にけじめが無く、賛同者を好み、異見者を憎み、優れて多弁な者を妬む。」として距離を置かれた[3]

ある時、圭泰が曹爽の意に反することを言ったため拘留され、鄧颺は重罪にしようとした。しかし、廷尉の司馬岐から「王室の補佐役でありながら徳を修めず、私怨で冤罪を押し付けようとは」と言われ、恥じ入り怒りながらも引き下がった。

正始5年(244年)、尚書の鄧颺、李勝らは、曹爽の威名を天下に響かせるべく蜀征伐を勧めた。6~7万の大軍が長安から出発したが、関中の氐、羌族は輸送を賄いきれず、牛馬などが多く死に道路は民の泣き声が響く有様となった。また蜀軍が山を堅固に守り、進軍がままならなくなった。参軍の楊偉は撤退を進言し、鄧颺と言い争って「鄧颺、李勝らは国事を誤らせようとしています。斬るべきです」と主張した。曹爽は喜ばず、結局成果をあげられずに撤退した。

正始8年(247年)5月、司馬懿が病と称して退くと、「何・鄧・丁が京城を乱している」と謡われた[4]。また「台中に三匹の狗がいる。二匹は噛みついて近づけない、一匹は黙(曹爽を指す)に張り付いて腫瘍となっている」[5]という落書きもされた。

正始9年(248年)の12月28日、何晏が管輅を招くとその席に鄧颺もいた。管輅が「謙譲と正道を進まないと危険である」と何晏へ忠告をしたが、鄧颺は「年寄りがよく言う話だ」と取り合わなかった。一方で管輅は鄧颺や何晏の死相を読み取っており[6]、10日ほどで結果が表れた。

嘉平元年(249年)の正月、司馬懿による政変が起こると曹爽らと連座して夷三族となった。

脚注

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  1. ^ 『通鑑』
  2. ^ 『魏略』
  3. ^ 『傳子』
  4. ^ 『晋書』
  5. ^ 『三國志』注『魏略』三匹は何晏と鄧颺と丁謐を指し、丁謐がもっとも害が大きい事を示す。
  6. ^ 『管輅別伝』歩きぶりは、筋肉が骨を支えず、脈は肉を制御せず、立っても傾き、手足が無いようで、『鬼躁』と呼ばれる状態にあった。

参考文献

  • 『三國志』
陳寿撰 『三国志』 に立伝されている人物および四夷
魏志
(魏書)
巻1 武帝紀
巻2 文帝紀
巻3 明帝紀
巻4 三少帝紀
巻5 后妃伝
巻6 董二袁劉伝
巻7 呂布臧洪伝
巻8 二公孫陶四張伝
巻9 諸夏侯曹伝
巻10 荀彧荀攸賈詡伝
巻11 袁張涼国田王邴管伝
巻12 崔毛徐何邢鮑司馬伝
巻13 鍾繇華歆王朗伝
巻14 程郭董劉蔣劉伝
巻15 劉司馬梁張温賈伝
巻16 任蘇杜鄭倉伝
巻17 張楽于張徐伝
巻18 二李臧文呂許典二龐
閻伝
巻19 任城陳蕭王伝
巻20 武文世王公伝
巻21 王衛二劉傅伝
巻22 桓二陳徐衛盧伝
巻23 和常楊杜趙裴伝
巻24 韓崔高孫王伝
巻25 辛毗楊阜高堂隆伝
巻26 満田牽郭伝
巻27 徐胡二王伝
巻28 王毌丘諸葛鄧鍾伝
巻29 方技伝
巻30 烏丸鮮卑東夷伝

(蜀書)
巻31 劉二牧伝
巻32 先主伝
巻33 後主伝
巻34 二主妃子伝
巻35 諸葛亮伝
巻36 関張馬黄趙伝
巻37 龐統法正伝
巻38 許糜孫簡伊秦伝
巻39 董劉馬陳董呂伝
巻40 劉彭廖李劉魏楊伝
巻41 霍王向張楊費伝
巻42 杜周杜許孟来尹李譙
郤伝
巻43 黄李呂馬王張伝
巻44 蔣琬費禕姜維伝
巻45 鄧張宗楊伝
呉志
(呉書)
巻46 孫破虜討逆伝
巻47 呉主伝
巻48 三嗣主伝
巻49 劉繇太史慈士燮伝
巻50 妃嬪伝
巻51 宗室伝
巻52 張顧諸葛歩伝
巻53 張厳程闞薛伝
巻54 周瑜魯粛呂蒙伝
巻55 程黄韓蔣周陳董甘淩
徐潘丁伝
巻56 朱治朱然呂範朱桓伝
巻57 虞陸張駱陸吾朱伝
巻58 陸遜伝
巻59 呉主五子伝
巻60 賀全呂周鍾離伝
巻61 潘濬陸凱伝
巻62 是儀胡綜伝
巻63 呉範劉惇趙達伝
巻64 諸葛滕二孫濮陽伝
巻65 王楼賀韋華伝